統合失調症患者の徒然日誌

毒にも薬にもならぬ文字を書き捨てる。

生き延びるための選択肢〜最強のカード篇〜(11月28日の日記)

朝四時に目が覚める。

相変わらず体は硬直し、鋼鉄の様に重い。

しかし、午前九時を回る頃にはなんとか体は動かせる様になっていた。
かかりつけの精神科に電話をし、医療相談室へと繋いでもらう。
用件を伝え終わり電話を切る。

アポは取れた、これから準備し、病院に向かわなければ。

前日の夜、僕は生き残るための最強のカードがまだ残されていることに気がついたのだった。
すでにバイト先の社長にも、その用件で病院に行くため、仕事を休むということを前日に伝えてある。

身体を起こす。
身体中のあちこちがミシミシと軋む。
なんとか服を着替え、僕は前日に用意してあった今日の荷物を持つと、玄関へと歩みだす。
扉を開けると、11月の冷たい風が顔面に殴りかかって来る。

なんとか駅にたどり着き、ちょうど来た電車に乗り込む。
病院最寄りの駅までの間、電車のシートで座ったまま眠っていると夢を見た。

僕は気がつくと、かつて家族が3人揃っていた頃の実家にいた。
両親がコタツの上の鍋料理をつついている。

母がこちらに背中を向ける形でに席に座り、父は向かってコタツの右側の席に座っている。
「母さん」
とっさに言葉を口にした。

「お帰りなさい政宗、鍋がそろそろできる頃よ。」

「鍋…」

「冬はあったかいものをみんなで食べなきゃね。」

「ごめん、食べてる暇がないんだ、病院に行かなきゃいけなくて。」

「病院?こんな時間に?」

「うん。」

「何しに行くの?」

「入院の話を進めに行ってくるよ。」

「…そう。やっと、入院できそうなのね。気をつけて行ってらっしゃいね。」

「うん、ありがとう。母さん。」

政宗。」

「ん?」

「よくここまで、頑張ったわね。」

「…ありがとう。」

目が覚めると、ちょうど病院最寄り駅の一駅手前だった。
乗り過ごしていないことに一安心する間もなく、すぐに最寄り駅に到着する。

そこから10分ほど歩き、かかりつけの精神科に辿り着く。
受付に着き、相談室のケースワーカーを呼んでもらう。

しばらくすると廊下奥の扉が開き、僕の名前が呼ばれる。
失礼します、と挨拶して扉をくぐる。

「そこにおかけください。」と促され、テーブル横のパイプ椅子に座る。
向かいの席にケースワーカーが座る。

「入院したいとお電話で聞きましたが。」

「ここの病院は任意なら何日単位で入院できますか?」

「大部屋になってしまいますが、1日単位で入院可能ですよ。」

それ以降の会話は、僕の精神状態を話し、出来れば短期の入院をしたいと伝えた。

「明日、担当の先生が来るのでその時に日程調整を決めましょう。いつから希望とかありますか?」

「出来れば30日の診察翌日に。」

「では12月1日から5日、6日間ほどの入院でどうでしょう?」

「それでよろしくお願いいたします。」

ケースワーカーが心配そうな顔で質問する。

「ここまでその状態でどうやって来たんですか…?タクシーですか…?」

「いえ、歩きと電車で。気合いで動きました。」

「あぁ…あまり無理なさらないでくださいね、ゆっくり休んでからおかえりくださいね。」

「ありがとうございます。では明日のお電話お待ちしておりますので。失礼いたしました。」

相談室を出て、受付の人に「ありがとうございました。」と挨拶を交わし、外に出る。

朝より寒さが厳しくなった様な気がして、僕は喫煙所の自販機へと向かう。
温かい缶コーヒーを飲みながら、タバコに火を灯す。

ゆっくり吸って、空を見上げながら、ゆっくりと煙を吐く。
紫煙はあっという間に横浜の曇り空と同化して見えなくなる。

ついにこの時が来たか。
入院する時が。

幸いなことに、10日のライブのことを相談員に伝えたところ、それまでには退院できる様にしてくれるとのことだった。
もしも入院が長引きそうな時は、仮退院、外泊で対応しましょうと提案された。

人生初の精神科病棟への入院だ。
今までギリギリになっても切らなかった、いや切れなかったと言うべき、最強の手札を切った。

10日のライブまでに体調を整えておかなければ。
そんなことを考えながら、僕は家路についたのだった。