統合失調症患者の徒然日誌

毒にも薬にもならぬ文字を書き捨てる。

人を思い出すということ。

土曜日は約ひと月ぶりに出勤した。
業務のストレスも特に感じることはなく、SEOの勉強やらなんやらの業務が増えそうな予感に胸が踊った。

僕は前日の夜から寝ていなかったが、業務中に寝ることもなく、無事に仕事を終えた。

仕事帰りの足で、埼玉の実家から呼び出しを受けていたので帰ろうかと思ったが、土曜日の混雑と、京浜東北線の長時間の遅延の影響による混み具合を想像すると、無理だと思った僕は父に電話し、予定通り翌日に帰ることにした。
なんでもスマホの使い方がわからないらしい。

帰りながらキーボード氏に連絡し、宅飲みをすることにした。
そしてついさっきまで飲んでいた。

午前四時、雑然とした室内にエアコンの稼働音が響く。

そういえば、と、あることを思い出した。
まだ今日はやってなかった。

本棚の上に飾られた写真たての前に立つと、僕は静かに手を合わせる。5年間、毎日欠かさずやっている。

ふと、久しぶりに語りかける気分になった。

「母さん、この前初めてライブをやったよ。」
「うん、あなたが褒めてくれたベースでね。」
「うん、緊張したよ。でも、いい刺激になったみたいで希死念慮が完全に消えたし、極度のうつ状態も治った。」
「父さんは、元気でやってるらしい、まあ、新しい携帯を全く使いこなせてないみたいだけどね…。明日使い方を教えに行くんだ。」

室内でエアコンが静かに呼吸をしている。

「みんなも前に徐々に進み出してる。うん、当然、僕もね。」

「そうだね、希死念慮が消えて本当によかった。今ではもうすっかり元気でね。だからあなたのところにはまだーーー。」

行けないんだ。

最後の言葉を出さずに飲み込んだ瞬間、完全に忘れていたことを思い出した。
母が友人に語った最後の言葉の続きを、5年ぶりに思い出す。

「私が死んでも、あの子には、ずっと変わらず優しい子でいてもらいたいわ。」

気がつくと僕は嗚咽をもらしながら床に崩れ落ちていた。
上階に住む、就寝してるであろうドラムボーカル氏をもしかしたら起こしてしまうのではないかって程に、嗚咽をもらしながら泣いた。

母が亡くなってから、自発的に泣いたのは5年ぶりだった。

「あぁ…あぁぁぁ…。」

エアコンの呼吸音のみが響く部屋に、新たな音が加わっていく。

そのまま僕は15分くらい泣いていた。

床の上で嗚咽をもらしながら横に倒れこもうとした時、身体が立てかけてあるベースにぶつかり、チューニングが若干狂った五弦のB音が室内に響く。

その音で、ハッと正気に戻る。
そうだ、俺にはまだ使命がある。
バンドで音を紡ぐ使命が、仕事に打ち込む使命が、残っている。

体をゆっくり起こし、立ち上がる。

写真の中の女性と目が合う。

これからも見守っていてください、母さん。
では、おやすみ。