統合失調症患者の徒然日誌

毒にも薬にもならぬ文字を書き捨てる。

浴室の鏡に疲れ切った男が映っている。
酷い面構えだ。
時刻は午前5時45分、やはりいつも通り目覚ましより早く起きた僕は、朝風呂に入って髭を剃るところだった。
気分は最悪で、体調は言わずもがな、ここ一週間寝込んでいたところだった。

風呂から上がり、タオルで髪を乾かしながら室内に戻ると、ちょうどベッドの枕元に置いてある目覚ましが鳴る。
家電屋で見つけた、飛び切り馬鹿でかい音の鳴る目覚ましはかれこれ三十秒は鳴り続けている。

布団にくるまった人物が中から手を伸ばし、目覚ましを止める。
「うぇ、まだ六時だよ…?」
「うん、いつも先に起きるんだ。風呂入るかい?」
「知ってるでしょ朝弱いの、低血圧なめんなよ。」
布団の中の彼女が睨んでくる。
「はは、ごめん。」
「ねえ、いつもこんな時間に起きてるの?なんで?」
彼女はまた布団にくるまり、寝ようとしている。
「生活をちゃんとしておくと、体もちゃんとして来るんだよ。」
「一週間寝込んでたくせに?」
「そういう時もある。」
僕は床に転がったドライヤーを拾い上げるとコンセントにつなぎ、電源を入れる。

「ねえ?」
「ん?」
ドライヤーの風圧に負けないように声を若干張り上げる。
「子供、欲しいと思う?」
僕は聞こえないふりをしながら、髪を乾かす。

「ねえってば。聴いてる?」

僕は無言で髪を乾かし続ける。
この言葉にこたえる必要はない。

「ねえってば。」

なぜなら彼女は、もう。
ドライヤーの電源を切る。
同時にさっきまで聞こえていた彼女の怒気を孕んだ声が止まる。

彼女はもう、去年亡くなっているのだから。

部屋に静寂が戻った。