統合失調感情障害患者の徒然日誌

毒にも薬にもならぬ文字を書き捨てる。

酩酊。

八月の末、台風が2つ迫った夜空には厚い雲がかかっており、星は見えない。

数時間前から降り続けている雨によって、周りの音は静まりかえっている。

そんな雨の中を、傘をささずに散歩し、そろそろ潮時だと思ったところで近所の公園にたどり着く。

公園内をぐるりと歩き回り、植えてある樹木を一本ずつ吟味する。

良さそうな木を見つけると、手頃な高さにある枝に、手製のロープを掛ける。

試しに全体重を一気にかける。

呆気なく、湿った破断音を立てて足元に折れた枝が転がった。

その光景を目にした途端、胸の奥底にあった恐怖心が表面化し、すぐさまその場を立ち去りたい衝動にかられる。

折れた枝を近くの草むらに放り投げ、雨を吸って湿ったロープを仕舞い、その場を立ち去ろうとすると背後から声がした。

「またそうやって逃げ出すのか。」

誰かと会話している時、いつも自分の頭蓋に響く声と全く同じ波長の声が、矢継ぎ早に責めてくる。

「いい加減、このくらいでキリがいいんだ。なあ、分かってるんだろ?そろそろ一発で決めてみせろよ。この臆病者。」

「うるさい黙れ、タイミングとか、それを決めるのはお前じゃないんだよ。」

「全く…。この会話もお決まりになってきたな、俺はそろそろ飽きてきたよ。お前じゃないけど『全部飽きた。満足いった。』ってやつだ。お前だってもう疲れてるだろう?」

「黙れと言った、お前といくら議論したってなんの真理も掴めない。罪とか、救うとか、それはお前や他者から与えてもらうものじゃない。俺が俺の手で掴まなきゃならないものだ、他人から与えてもらうものではないはずだ。」

「はいはい、分かった分かった。まあ、気が向いたらまた声をかけてくれよ。俺はいつでも待ってるぜ。」

いつでも待っている、か。
その言葉に思うところがあり、何とも言えない表情になる。


そして僕はまだうるさく喋り続けるその声を無視すると、土砂降りの中を足早に進む。

ここ最近、前回の元カノの自死からちょうど一年のタイミングで、別の元カノが自死を遂げた。

遂げた、と言うにはやや正確さが欠けており、今回の件について僕はその話をした知人からその時の状況を詳しく聞くことは無かった。

彼女はよく吐いていた。それにも理由があるのだが。

彼女は常日頃から溜め込んだベンゾジアゼピンをODし、アルコールをギリギリの量まで飲み、酩酊していた。

あの頃を思い出す。

―――――――

「こうしていると何も怖くなくなるの、生きてることも、昔のことも。これをやめたらどうやって生きて行けばいいか分からない。」

僕はそんな独白のような独り言を聞きながら、床に散らばった薬物のシートを片付け、風呂場から洗面器を持ってくると黙って彼女の横になっているベッドの枕の横に置く。

しばらく経つと彼女は「気持ち悪い。」とうわごとのように繰り返し始める。

僕はうんうんと頷きながら、彼女の首の下に腕を回し、体を起こしながら顔を洗面器に誘導する。

彼女もその意図が分かったのか、自分の体を支えつつ、洗面器に顔を突っ込む。

吐しゃ音を立てながら彼女が吐く。

一通り吐き終えたと思うと、彼女は泣きだした。

しかしまだ吐き気は続くらしく、彼女はえづきながら何かをしゃべっている。

僕は静かに、うん、うん。そうだね。辛いね。と相槌を打つ。

このままだとこの子はそう長くないな。そんな不謹慎な予想が脳裏をよぎる。

彼女は寂しがりやで、僕に連絡があるたび「今から行くよ。」と僕が言うと、「いつでも待ってるよ。」と返してくるのだった。

――――――

家にたどり着く。

今まで亡くなった人たちに僕は報えているのだろうか?

彼/彼女たちがもうこの世にいない以上それを確かめるすべはない。

 


その日からしばらく経ったいま、僕は答えを自分の中に見つけられていない。

たぶんこれらの問いの答えは、他者の中にはない。
自分と深く向き合わないと、おそらく答えは得られないであろう。
答えは自分の中にしかないのだ。

誰かの書いた本や文章、芸術作品の中には、限りなく近似のものはあるだろうけれど、それは僕の答えではない。

どうすればいいんだろう。

そう悩みながらこの文章を打っている。

もっと、もっと深くまで潜らなければ。

いつか必ず、真理にたどり着いて見せる。

終わり。


作成時BGM
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